米国株ブログをいくつか購読している人なら、きっとうなずいてくれると思うのですが、持ち株が似ている人がすごく多いですよね。
たとえば、アルトリア、フィリップモリス、AT&T、ベライゾン、ジョンソン&ジョンソン、P&G、コカ・コーラ、エクソンモービル、などなど。
昔からある、世界的に知られた企業の数々。
しかし、同時に一時期のアマゾン、グーグルのような成長はとても見込めない企業でもあります。
アルトリア、フィリップモリスなんてタバコ産業ですし。
自分の読んでいるブログが偏っている、という可能性はなきにしもあらずですが、上にあげた株を一つも持っていない米国株ブログは見たことがないです。
なぜ 米国株ブロガーのポートフォリオが似たものになってしまうのか?
おそらく、というかほぼ間違いなく、その原因を作ったのはこの本でしょう。
シーゲル教授の株式投資の未来。
株本のなかではトップクラスに有名な本。
この本の優れているところは、豊富なデータを検証することによって株式投資の一面をえぐりだしているところです。
第1章『成長の罠』ではこんな例が出てきます。
1950年にIBMとスタンダード・オイルのどっちに投資したほうが成績がよかったのか?
まず、タイムトラベルができる投資家になったところを想像してみてほしい。前もって顛末を承知した上で投資判断を下すという、願ってもない立場に立てるわけだ。そして1950年に戻って、ふたつの銘柄からひとつを選び、それを買って、現在まで保有する。ここではオールド・エコノミー陣営のスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー(現在のエクソンモービル)と、ニュー・エコノミー陣営の巨人、IBMのふたつからひとつを選ぶとしよう。
選択して、それを買い、証券会社に頼んで、現金配当の全額を同じ銘柄に再投資する。そして株券を金庫にしまって、鍵をかける。開封するのは半世紀後だ。
50年前といえば、これからハイテク産業が伸びていくとき。
テクノロジーの進歩が、人々の生活を便利で豊かなものへと変えていきます。
そうしたテクノロジーの進歩という意味ではシンボリックな存在であったIBM。
一方、スタンダード・オイル(元エクソンモービル)が所属している石油業界。
ハイテク産業とは対照的に、石油業界が株式市場に占める割合は劇的に縮小しています。1950年に米国の時価総額に占める石油セクターの割合は20%でした。
しかし、2000年には5%を割り込んでいます。
事実、IBMの成長力はスタンダード・オイルのそれを大幅に上回っています。
とくに、ウォール街が好んで用いる「1株あたり利益(EPS)」をみると、IBMのEPS伸び率は、向こう50年にわたって、石油王手、スタンダード・オイルを年率3ポイント以上上回っている。
さて、1950年にこの二銘柄に投資した1000ドルは2003年にどうなっているのか。
結果
IBM 96万1000ドル
スタンダード・オイル 126万ドル
まあ、正直、IBMでも、めちゃくちゃ優秀な運用成績じゃん、と思いますが、とりあえず、IBMはスタンダード・オイルの成績を24%下回りました。
なぜスタンダード・オイルがIBMにまさるのか?
単純にIBMの株価が高すぎたからです。
50年間の平均PERはIBMが26.76%。
一方、スタンダード・オイルは12.97%。半分以下です。
また、平均配当利回りはIBM2.18%。
スタンダード・オイルは5.19%。
これも倍以上の差がついています。
ただ、ここで疑問がひとつ。
いくらIBMの株価が高いといっても、これは50年もの長期にわたった話。
成長力にまさるIBMはスタンダード・オイルよりも成績が上回ってしかるべきでは?
平均PERだって、2倍程度の差でしかないわけです。
そんなの5年、10年の期間があれば、余裕でIBMが上回りそうな気がするんですよね。
実際、これはそのとおりで、株価上昇率で比べれば、IBMのほうが年率3ポイント上回るそう。
つまり、ただ単にチャートだけを見ていれば、IBMのほうが株価上昇率は高かったのです。
これは、配当を同じ株に再投資した場合にどうなったのかという話なのです。
なるほど。たしかに、スタンダード・オイルのほうが配当利回りが高いし、しかも、株価も割安だから、その分、多く買えるわけですね。
株式投資の長期リターンは、企業の増益率そのものではなく、実際の増減率が投資家の期待に対してどうだったかで決まる。IBMはたしかに優秀な成績を達成した。だが、投資家もIBMには優秀な業績を期待していた。したがって、IBMの株価はつねに高かった。一方、スタンダード・オイルでは投資家の増益期待はきわめて控え目だった。したがって、スタンダード・オイルの株価はつねに低く、投資家は配当の再投資を繰り返すことで、保有株を積み上げていった。保有株数が上回った分だけ、スタンダード・オイルのリターンはIBMを上回った。
(中略)
株式投資のリターンを左右するのは、企業の増益率ではなく、実際の増益率が投資家の期待を上回るかどうか、この一点にかかっている。
このように、成長の期待できるセクターが期待外れの結果に終わることを、シーゲルは「成長の罠」と呼んでいます。
「投資家の期待」と「実際の増益率」の関係で将来の投資リターンが決まるというわけです。これは不人気銘柄をあえて買う、バリュー投資に近いですね。
「ブスだと思っていたけど、案外、かわいいところがあった」
そのギャップで利益を出そうとするのがバリュー投資ですから。
さて、ここで話は冒頭に戻ります。
つまり、米国株ブロガーの持ち株が似通っているっていう話です。
「株式投資の未来」は株本のなかでもトップクラスに有名な本です。
株式投資の膨大なデータに基づき、素晴らしい知見を与えてくれる本ですから、それも当然です。
ですが、この本の内容は人口に膾炙しすぎてしまったという可能性もなきにしもあらずだと思うのです。
つまり、この本のなかで、投資成績がよかったとされる銘柄や、セクターは過去において、
投資家の期待<実際の増益率
だったわけです。しかし、この本が出たことにより、いわゆる「シーゲル銘柄」に対して投資家の期待が高まってしまった可能性があります。
実際にシーゲル的な銘柄を持っている米国株投資家が多数いることが証左の一つであるともいえます。
しかも米国株は10年ちかく上昇し続けています。
割安な株を見つけるのが非常にむずかしい。
単純にシーゲル銘柄を買って、超長期で放置していれば報いられる、というのは楽観的すぎるのかもしれないですね。
・・・といいながら、私もアルトリアを持ってますけど。うむ・・・。