今日は「いいお墓」「いい葬儀」等のポータルサイトを運営する鎌倉新書(6184)を見ていきたいと思います。
1月29日時点で株価は1637円、PER106倍、PBRは21.3倍になります。
ぱっと見ではむっちゃ高いですね。
さて、この株価は妥当なんでしょうか?
葬儀業界の現在
まずおおざっぱに葬儀業界全体を見てみます。
死亡者数は年2%で増えていて、葬儀需要は右肩上がりです。
団塊の世代が亡くなる2035~2040年くらいに死者数はピークを迎える予定。
団塊の世代は高度経済成長、バブル景気を生み出しましたが、その生の最後も葬儀業界に恩恵をもたらしそうです。
葬儀社の種類として主なものは以下の3つになります。
①冠婚葬祭互助会
②葬祭専門事業者
③JA
①の冠婚葬祭互助会というのは、月々、少額を積み立てておいて葬式に備えるというもの。
上場企業でいうと平安レイサービス、サンライフ、燦ホールディングス(公益社)などがそれにあたります。
非上場ですがベルコなんかは大手ですね。
さて都市化が進み、地縁や血縁といったしがらみで葬儀、お墓を選ぶことが少なくなりました。
また、葬式につきものの「お金の不透明さ」に対する根強い不信感も厳然としてあります。
お坊さんへの高額なお布施だったり、使いまわしの花が10万円以上したり、葬式関係はとにかく納得のいかないお金のオンパレードです。
また、病院やお寺へ葬儀社が払うバックマージンがとんでもない金額だという話はいろいろ耳にするものです。
結局、そうしたバックマージンも消費者である我々が負担することになるわけです。
また前出の互助会も退会する際に相当額の退会費を請求されてもめるといった話も枚挙にいとまがありません。
ネット系葬儀社の台頭
こうした不信感を払しょくする形で出てきたのがネット系葬儀社です。
サイト上でいくつかのパッケージプランを明示し、消費者に選んでもらう。
安さとわかりやすさが受け、近年、急成長をとげています。
鎌倉新書の「いい葬儀」、ユニクエストの「小さなお葬式」、よりそうの「よりそうのお葬式」などです。
また、イオンが2009年に「イオンのお葬式」として新規参入しています。
このなかで安さを武器にしているのが小さなお葬式、よりそうのお葬式、イオンのお葬式です。
鎌倉新書の「いい葬儀」はサイトを見ても、それほど安さを売りにはしていない印象。
こうしたネット系葬儀社は自社のポータルサイトで集客し、他の葬儀社に紹介し、そのマージンをとるというシステムです。
マージン料は15~30%くらいだそう。
ネット葬儀社の登場により、既存の葬儀会社も価格競争に巻き込まれています。
零細業者は売上げ欲しさにネット系葬儀社の下請け化しますが、紹介マージンを抜かれるので利益率は低下します。
また、旧来の互助会系葬儀社は大きな会館を保有しているため、ネット系ほど料金を下げられないというジレンマに苦しめられます。
鎌倉新書の利益率
ここからは鎌倉新書の業績を軽く見ていきたいと思います。
鎌倉新書の売上、営業利益の過去数年の推移はこんな感じ。
きれいな右肩上がりですね。
また鎌倉新書の最新決算である2020年度1月期の3Q決算ではセグメント別の売上は以下のとおりです。
お墓関係の売上がいちばん多く、その次が葬祭関係です。
また3Q時点での利益率はこうなってます。
粗利率 68%(前期3Qは69%)
営業利益率 24%(前期3Qは29%)
極めて高い利益率ですね。
前期比でいうと、粗利率が横ばいなのに対し、営業利益率は5%減になっていますが、これは新オフィスに移転したこと、また採用を積極的に行ったことによる人件費増なので、問題はないと思われます。
自己資本比率は91%。固定資産は少なく、現預金などの流動資産がほとんどです。
ここらへん、自社のポータルサイトに集客してしまえば、その後は葬儀業者、墓石業者から紹介マージンを取るだけという、マッチングビジネスの強みがよくあらわれています。
鎌倉新書のポータルサイト
鎌倉新書のポータルサイトはいくつかあるのですが、そのうちの主要な二つ「いい葬儀」と「いいお墓」について触れます。
葬儀・葬式・家族葬なら「いい葬儀」日本最大級の葬儀相談・依頼サイト
日本最大級のお墓ポータルサイト!全国のお墓が探せる【いいお墓】
さてsimilarwebでこの二つのポータルサイトを見てみます。
similarwebはそのサイトのトラフィックやアクセス元がわかるサイト。
完全に正確とはいえないようですが、それなりに参考にはなると思います。
トラフィックソース
いい葬儀
いいお墓
いいお墓の検索エンジン経由のアクセスは70%強、いい葬儀にいたっては90%強が検索エンジン経由です。
それでは、どんな検索ワードでサイトに流入しているのかを見てます。
いい葬儀
いいお墓
「いいお墓」の検索トップワードは「いいお墓」ですが、0.66%にすぎません。
「喪中ハガキ いつ出す」「樹木葬」「享年とは」などの検索ワードが上位に並びますが、そのいずれもパーセンテージとしては小さいです。
どちらのサイトも葬式、お墓に関するコラムが多数あるため、それらの記事に対してロングテールで検索流入が起こっているのでしょう。
逆に言えば、「いい葬儀」「いいお墓」というサイト自体が好んで選択されているわけではなく、葬式、お墓に関する疑問が解決されるのであれば、訪問者としては他のサイトでもぜんぜん構わないともいえます。
たとえばじゃらん、ゼクシィとの比較
そもそも葬儀、またはお墓というものは一生のうち、一、二回程度しか必要としないものです。
頻繁に葬儀、お墓を必要とする人っていうのは、生命保険金目当ての殺人者くらいしか思いつきません。
たとえば、同じポータルサイトでも旅行サイトのじゃらんや楽天トラベルは人によっては頻繁に利用し、また一度利用したサイトは勝手がわかっているため、何度も繰り返し利用します。
同じようにsimilarwebでじゃらんを見てましょう。
じゃらんのダイレクトが26%というのは意外に低いですが、検索ワードでは上位すべてが「じゃらん」関係。
自分もじゃらんをよく使うのですが、いつも検索エンジン経由で入ってます。
こうした継続性のあるサイトと、鎌倉新書のような一回性のサイトは区別する必要があるでしょう。
また、葬式関係と同じく、そう頻繁に使うものではないと思われるものに結婚サイトのゼクシィがあります。
同じくリクルートですが。
こちらも、ちょっと見てましょう。
「夫婦 夜の生活 年数」がちょっと気になるものの、そこはスルーましょう。
検索ワードのなかにはゼクシィが多数見られます。
有料版でないと5位以下は見られないので、これ以上はわかりませんが、「ゼクシィ+ワード」で検索している層はかなり多いと思われます。
これはゼクシィの長年によるCM効果で「結婚といえばゼクシィ」という認識が強固にすりこまれているからでしょう。
いっぽう「葬儀といえばいい葬儀」、「お墓といえばいいお墓」という認識にはなっていません。
実は、これは鎌倉新書もそう思っているらしく、以下の「いいお墓事業部」のインタビューでゼクシィと自社サイトを比較した発言があります。
田中:「私たちの一番の課題は、お墓選びが必要になったときに『いいお墓』が第一想起されないということです。
例えば、結婚式であれば、ゼクシィが一番最初に思い浮かびますよね。『いいお墓』もそういったブランド力を持ちたいと思っています。」
しかし、ゼクシィのブランド力というものは長年のCM、また雑誌時代からの蓄積によってもたらされたものなわけで、一朝一夕にブランドを構築するのはなかなかむずかしいと思われます。
最後に
鎌倉新書を調べてみる前は
「PER100倍強っていくらなんでも高すぎだろw」
と思ってましたが、調べてみるとそれなりの妥当性はあるように感じてきました。
過去の成長性や利益率の高さを鑑みると、鎌倉新書に期待したくなる気持ちはわかります。
ただ、どうしても検索エンジン頼みのビジネスというものには危うさを感じてしまいます。
google次第でアクセス数はいくらでも変わりうるわけですから。
ちなみに「いいお墓」の過去数か月のトラフィックを見ると、結構右肩下がりです。
鎌倉新書は今、第3四半期まで終わったところで、第4四半期は11月、12月、1月の3か月です。
4Q単体での売上がどうなるのか、ちょっと気になるところです。