前回の続きです。
小さな発見。
検索窓に『商社株』と打ち込むと『なぜ下がる』がサジェストされます。
直近6か月では、五大商社のなかでいちばん株価が下落しているのが三菱商事。
ということで、今回も三菱商事の悪口、じゃなくて悪材料をあげつらってみたいと思います。
④三菱商事って貧乏くじを引かされすぎじゃない?
前記事で触れた千代田化工もそうですが、三菱商事って貧乏くじを引かされることが多い印象です。
たとえば、2018年2月に三菱商事はTOBで三菱自動車の株を1200億円で取得しました。
これは国産ジェット事業などで苦戦が続く三菱重工の要請を受けたものです。
三菱グループのなかで御三家と呼ばれるのは三菱重工、三菱商事、三菱UFJ銀行です。
三菱自動車をテーマにした池井戸潤の名作「空飛ぶタイヤ」を読んだ人ならご存じでしょうが、このなかで一番地位が高いのが三菱重工。
「三菱商事は三菱重工に頭が上がらない。『自工(三菱自)株を買ってほしい』と頼まれたら嫌とは言えず渋々応じたのでは」(アナリスト)との見方もある。
三菱自動車にカネは出すのに口は出せない三菱商事(週刊エコノミスト) 三菱商事は2月20日、三菱自動車の株式を…|dメニューニュース(NTTドコモ)
千代田化工のときも同じですが、しぶしぶ、いやいやながら投資を引き受けている印象があります。
自動車業界は大変革期にあり、どこが10年後の勝者になるのか予断を許さない状況にあります。
そして、三菱商事も自動車関連をこれからの成長ドライバーとみています。
これから荒波をかきわけて前進していかなければいけません。
しかし、そのときのパートナーが三菱自動車ってのはいくらなんでも弱くないですかね。
三菱自動車が自動車業界でなんらかの存在感を示す未来があるとはとても思えません。
日産と三菱商事の取引もあまりないようですし。
戦略的に投資をするならいざしらず、三菱グループ内の力関係で投資せざるをえない、もしくは三菱グループ全体のことを考えて泥をかぶらなければいけない。こういうのは困ります。
別にこっちは三菱グループに投資しているんじゃなくて、三菱商事に投資しているわけですから。
ちなみに三菱自動車の株価推移はこんな感じです。
⑤ コングロマリットディスカウント
以下が三菱商事の子会社、また持ち分法適用会社になります。
多すぎ。それが第一声ですが主要な会社を上げると、子会社ではローソン、レンタルのニッケン。なんかがあります。
持ち分法適用会社では三菱自動車、千代田化工、伊東ハム米久HD、かどや製油、日本KFCなどがあります。
また子会社を通じて世界各国の資源に投資しています。
『選択と集中』が一般的にはよしとされているなかで、こうした多分野への投資はあまり評価されない傾向にあります。
また、三菱商事の投資先はあまりの多岐にわたるため、個人投資家ではとても把握しきれるものじゃありません。
実際、私はここ2週間くらい、三菱商事の財務諸表だったり、関連したニュース記事だったりをさんざん読んできましたが、三菱商事という会社を理解できた、とはとても思えません。
目隠しされたまま、象をなでているような不全感があります。
「わからない」という不安感から株価が割安に放置されるのはある種の必然といえます。
ここらへんは、他の商社株、またはオリックスあたりもそうですね。
もっとも、「選択と集中」が一概に正しいとはいえない部分もあるでしょう。
「選択と集中」の結果、成功すればいいですけど、失敗したら業績は真っ逆さまに落ちていきますし。
第一、投資においても普通は「分散投資」のほうが安全だと言われているわけで、それなりにリスクヘッジされていると考えることもできます。
⑥同じ商社株なら伊藤忠のほうが魅力的だから
PERはだいたい同じ水準。
グレアムのミックス係数(PER×PBR)では、三菱商事が4.8、伊藤忠が6.93と、一見すると三菱商事のほうが割安です。
しかし、PBR=PER×ROEなので、PERが同じ水準の場合、PBRが高いほうがROEも高くなります。
実際に三菱商事のROEが10.7%なのに対し、伊藤忠は17.5%になります。
ここ5年ほどのROEを見てみても、伊藤忠が15%前後なのに対し、三菱商事は10%前後。
つまり、株主資本を使って効率的に利益をあげているのは伊藤忠ということになります。
また、伊藤忠は資源にあまり投資をしていないため、資源価格に業績が左右されにくい。
2016年に三菱商事はチリの銅鉱山の減損処理を行い、赤字転落しましたが、こういうことが起こりにくいでしょう。
ROEが高く、また業績も伊藤忠のほうが安定しているため、年ごとにBPS(1株当たり純資産)が積みあがっていくことになります。
三菱商事のBPSは2014年に3074円でした。それが2019年には3589円になっています。
一方、伊藤忠のBPSは2014年に1294円。2019年には1930円まで増やしています。
5年で三菱商事がBPSを1.16倍にしたのに対し、伊藤忠は1.5倍まで増やしていることになります。
三菱重工が国産ジェットに苦戦しているなか、三菱商事は三菱グループ全体の面倒をみなければならない局面が増えるかもしれません。
正直、三菱グループの一員であることのメリットよりもデメリットのほうが大きくなっているような気がします。
そうした面からも、伊藤忠はしがらみが少なそうでよさそうだなと思います。
未来はどうなるかわからない。だから、PBRで判断するという人なら三菱商事が割安だと考えるはずです。
しかし、過去数年の業績がそのまま続くはず、もしくは伊藤忠のビジネスモデルが優れていると考えるなら、伊藤忠のほうが割安に映るのではないでしょうか。
正直、どっちの株が割安かということについては神学論争を招きかねません。
成長株(伊藤忠)か、バリュー株(三菱商事)ってことですから。
しかし、個人的には伊藤忠のほうがリスクが少ないんじゃないかとは思いました。
ということで、結論としては三菱商事よりも伊藤忠の株を買え、ですかね。
ちなみに、私は伊藤忠の株は一つも持っていません。
追記
他の商社株に比べて三菱商事の株価が低迷していたのは、社員のデリバティブ取引で損失を出したことが原因だったようです。
下の記事でその件について触れています。
参考記事
それでも私が「万年割安」な商社株を推奨するシンプルな理由=栫井駿介 | マネーボイス
ローソン成長てこ入れ不可欠 子会社化から半年、成果見えず 三菱商事の“次の一手”は (1/4ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)
いまさら聞けない「商社の非資源戦略」をザックリ解説!独走する伊藤忠、三井物産は1兆円投資、三菱商事はどうする?|就活サイト【ONE CAREER】
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